「知らない方がいいよ。捕まったときに嘘言えないでしょ」

「ちょっとなによそれ。捕まったときって」

「捕まったら助け出すよ」

 安心してね──って安心出来る訳ないでしょ!

 幸子は段々、この爽やかな笑顔に腹が立ってきた。

 そうして辺りは薄暗くなり始め、厚着していない幸子は自分を抱きしめるように小さく震えた。

「ゆきちゃん」

 いきなり呼びタメかこいつ。

「せめて羽織るものくらい入れてきたらどうよ」

「悪かったわね。こんな時間まで山にいるつもりはなかったのよ」

 皮肉を込めて言い放つ。

「緊急のときとか考えないんだ」

 ぼそりと皮肉で返されてカチンときた。