【夏柳さんちの】
雨だ。土砂降りだ。春の嵐だ。
「知ってるぞ。こういうのを月に叢雲花に風って言うんだ」
「あっれ、翠の口からそんな言葉が聞けるとは」
「ふっふっふ、馬鹿にするなよ鷲亮。私をただの食欲モリモリ赤点喧嘩娘だと思ったら大間違いなのだ」
「自分で言うなよ……」
「それにしてもだ。雨の奴ももう少し空気を読めんのか」
「せっかく桜満開だって言うのに……流石にちょっと涙出そう、俺」
「綺麗に咲いた桜、三鶴にも見せてやりたかったのだがなあ」
「うわびっくり。花より団子な姉ちゃんの台詞とは思えない」
「なっ、花より団子は私より寧ろ三鶴の方だろ。それに私は何でもきちんと食べるが、あいつは甘味しか食わん」
「そういう問題? 結局は食欲優先なんだから、どっちもどっちでしょ」
「大違いだ。三鶴は菓子ばかり食べてるから、こんな時期に熱なんか出すのだ。その点私は健康そのもの! どうだ、えっへん」
「うーん、翠の場合ナントカは風邪ひかないってだけな気も」
「ナントカとはなんだ、健康優良児のことか?」
「え? ああうんそうなんじゃない。でもまあほんと、写真でも撮っておけば良かったなあ」