僕を行かせまいと、奈津美さんは必死に僕の羽織の袖をつかむ。
震える手が、彼女の懸命さを物語っていた。
そしてこの震えから、彼女は理解しているのだとわかる。
…彼女は、本気で僕を止められるとは思っていない。
僕を繋ぎとめられるとは思っていない。
それでも、何とかして留まらせたいと思ってくれている。
…その優しさが、堪らなく愛おしかった。
彼女が僕の時代にいてくれたなら。
僕が彼女の時代に生まれていたなら。
そんな不可能な事を考えてしまうほど、胸をかきむしられる思いだった。
こんな運命を与えた神を呪いたい気持ちさえあった。
しかし。
…僕は奈津美さんの手を、静かに解く。
「新撰組隊規、士道に背くあるまじき事。敵前逃亡は士道不覚悟…それは、敵が病であろうと、負け戦とわかっていようと、決して変わらない事なんです…許して下さい、奈津美さん」
震える手が、彼女の懸命さを物語っていた。
そしてこの震えから、彼女は理解しているのだとわかる。
…彼女は、本気で僕を止められるとは思っていない。
僕を繋ぎとめられるとは思っていない。
それでも、何とかして留まらせたいと思ってくれている。
…その優しさが、堪らなく愛おしかった。
彼女が僕の時代にいてくれたなら。
僕が彼女の時代に生まれていたなら。
そんな不可能な事を考えてしまうほど、胸をかきむしられる思いだった。
こんな運命を与えた神を呪いたい気持ちさえあった。
しかし。
…僕は奈津美さんの手を、静かに解く。
「新撰組隊規、士道に背くあるまじき事。敵前逃亡は士道不覚悟…それは、敵が病であろうと、負け戦とわかっていようと、決して変わらない事なんです…許して下さい、奈津美さん」


