沖田総司は恋をする

よく見ていれば、沖田さんが本調子ではない事がわかった。

火事の時、マンションの階段をあれほどの速さで駆け上がっても呼吸一つ乱していなかった彼が、今の攻防だけで、肩で息をしている。

頬を伝う汗の量も尋常ではない。

既に体力には余裕がないのではないか。

そう思わせるほどの疲労ぶりだった。

…沖田さんの体を、早くも病魔が蝕み始めているのか。

もしかしたら斬り合いどころか、立っているのさえもやっとなのではないか。

今まで私達の前ではおくびにも出さなかったが、本当は彼自身、体の異常に気づいていたのかもしれない。

そう思うと。

「もうやめて下さい!!」

無意識のうちに私は声を上げていた。

「こんな事をして何になるんですか!ここは幕末の時代じゃないんです!ここで殺しあった所で、何の意味もありません!」

しかし、その言葉は。

「今度はこちらから行く!!」

「応!!」

二人の耳には届く事はなかった。

再び一足飛びに間合いを詰め、両者の剣がぶつかり合う。

火花が飛び散るほどの激しい打ち合い。

その斬撃は最早並の人間に見切れる速さではなく、沖田さんと吉田でさえも、気を抜けば一瞬のうちに両断されるであろう、それ程の領域の戦いだった。

自然、それ程の打ち合いならば、先に集中力の切れた方が不利になる。

そして沖田さんの今の体力では、長く集中力を保っている事は難しかった。