沖田総司は恋をする

約束の時間が来た。

丑の刻。

僕は誰もいない深夜の通りを歩いて、吉田が指定した神社へと向かっていた。

…背後には、へきるさんの姿があった。

僕が同行を頼んだのだ。

…僕が吉田との決闘に、勝つにせよ負けるにせよ、どちらか生き残った方は元の時代に必ず戻さねばならない。

決着がつき次第、その場で勝者は幕末に強制的に戻す。

その為の同行だった。

だが、それ以上はへきるさんを戦いに巻き込むつもりはない。

もし吉田がへきるさんにまで刃を向けるような事があれば、僕が身を呈してでも守る。

…神社が見えてきた。

僕は鳥居の前に立ち止まり、息を大きく吸う。

「吉田稔麿!!約束だ!!奈津美さんを返してもらいに来た!!」







   ◆◆◆◆◆



吉田という男は、思いの他、紳士的だった。

「すまぬな、娘。本来ならばお主を巻き込むような真似はするべきではないのだがな」

賽銭箱に腰掛けたまま、彼は私を見ながら言う。

…私は、念の為、と縄で後ろ手に縛られていた。

けど、そんなにきつく縛られていないから痛くもなかったし、吉田は何度も「きつくはないか?」、「痛ければ緩めてやる」と気にかけてくれた。

…百人いれば百の正義がある。

沖田さんは幕末に生きた人達の事を、そう評していた。

そういう意味で言えば、この吉田という男もその一人。

手段は選ばないものの、真に国を憂いでいた憂国の士の一人なのかもしれない。