沖田総司は恋をする

着物に着替え、刀を帯び、新撰組の羽織に袖を通す。

…これを身に着けると、心は自然と幕末に立ち戻る。

どんな場所にいようとも、僕の心は戦場に立ち戻るのだ。

…戦場に立てば、そこはもう甘えや情けなど通用しない世界。

病におかされているから、などという理由は、敵にとっては有利な材料でしかない。

死にたくなければ己の剣腕を信じるしかない。

そういう世界。

…僕は、それでもいい。

自らそういう世界に足を踏み入れた。

自らの手が血に染まる事を覚悟して、それでも国を憂いで新撰組に入隊した。

その事を後悔はしていない。

しかし、奈津美さんは違う。

彼女は幕末の人間でもなければ、侍ですらない。

この時代に生きてきた、平和な市井の人間なのだ。

それが、僕の側にいたばかりに囚われの身となり、今は危険に晒されている。

奈津美さんを巻き込んだ吉田に怒りを覚えると同時に、守りきれなかった自分の不甲斐なさに憤る。

今度は、失敗などしない。

命に代えても、奈津美さんは助け出してみせる。