「譜雪おはよ」
「冬樹今日もこっちなんだ。おはよ」
冬樹は最近毎日のように転校してくる。
一体何枚の転校手続きを使ってきたのだろう。
次の日もその次の日も冬樹はこっちの学校で過ごすようになった。
嬉しいのは嬉しいんだけどなんかあるんだよね〜。
「冬樹は最近どうしてここが多いの?」
「譜雪といたいから」
「どうやって来てるの?」
「転校手続きに決まってるじゃん」
「一日だけ?」
「違うよ。新しいシステムができたの」
「一週間制とか?」
「あたり。でも俺の場合は永遠制」
「じゃあずっとここ?」
「うんずっとここ」
「やった〜!」
なんだそうだったのか。
納得いくよね。
冬樹がここに本当に転校してきたおかげで毎日が楽しくなった。
四人で学校を探検したり授業をサボったりして先生によく怒られた。
中間テストのシーズンがやってきて勉強に明け暮れた。
順位はやっぱりトップで冬樹が二位。
沙苗が三位と左京が百位ギリギリ。
三人で左京をバカにして軽く打ち上げパーティーみたいなものもした。
先生も成績がいいだけに私達が授業をサボったりしても厳しい処罰を下す事は出来なかった。
おかげで勉強さえできればいいとすっかり不良生以上になっていた。
まだ授業をサボるだけならただの不良生。
私達の場合は勉強ができるから授業をサボる。
学校をサボるよりマシだ。
半年前なら考えられなかった事だ。
そんな事をする不良生を軽蔑したし、冬樹もそれに近かったため酷く嫌った。
でも今ではこんなに愛おしい存在になっている。
だからなのかもしれない。
冬樹のする事がいいように見えてかっこいいとも思ってしまう。
いけないと分かっていてもそれに染まってしまう。
今では参考書も鞄の中ではなくゴミ箱の中だ。
やり過ぎかな。
でも冬樹がこうしたんだ。
時々駄目だと分かっていてもやってしまう自分が嫌になったりしたらこうやって冬樹達のせいにしてしまう。
その時に思い出すのはなぜか春の期末テスト。
初めて冬樹に出会ってからしばらく経ってあいつが期末テストに現れた。
今冬樹が転校してきても思う。
なんであいつが…。
今でも冬樹をあいつ呼ばわりしてしまう。
嬉しい事があった時は文化祭で出会ったあの女の子。
何があっても思い出すのは嫌な事ばかり。
気づけば学校を休みがちになっていた。
何度か沙苗達がお見舞いに来てくれたが帰るよう頼んだ。
冬樹のせいだ、冬樹のせいだ。
いつしか呪文のようになったこの言葉。
冬樹は悪くない、冬樹は悪くない。
二つの真逆の思いが私を支えていた。
通うようになったのは乗馬クラブ。
沙苗の紹介で行ってみた。
ホースセラピーで落ち着いたら学校に来るといいよ。
値段は私の予想よりはるかに高かったが沙苗が半分くらい払ってくれた。
ありがとうと直で言いたいけどまだ会う勇気はなかった。
一ヶ月が経った。
十一月の上旬。
やっとの事で学校に行ったけど保健室で勉強するようになった。
冬樹達も何回か来てくれて忘れかけていた楽しさを取り戻せるようになった。
教室での授業を受けれるようになっても冬樹達はサボろうなんて言わなかった。
私が不登校になった原因を分かってのことだろう。
ある意味ありがた迷惑だった。
サボって気晴らしもしたかったけどそれはただの私の悪い癖。
まるで麻薬に染まってしまうようだった。
「無理しなくていいんだよ?」
皆にそう言われるのと冬樹に言われるのとでは全然違った。
嬉しかった。
冬樹と一緒にいる過ごす時間も増えて改めて冬樹がここにいる幸せが分かった気がする。
冬樹には影響されっぱなしだ。
冬樹のせいだと言い続けてきたけど本当に冬樹が悪いのかもしれない。
親にも冬樹と距離を置くよう言われた。
けど無視し続けた。
親の言うことを聞かないで後悔するまで…。