「いらっしゃい」
「よってらっしゃいきてらっしゃい」
今は文化祭。
いろいろな屋台が並んでいる。
私のクラスはお化け屋敷をしている。
外も屋台でいっぱいだけど中も結構盛り上がってる。
私も久しぶりにおさげ髪にして柳の下の幽霊を演じてみた。
そこまでリアルじゃないけどなんか一番怖いらしい。
休憩時間に入って沙苗と一緒に外に出た。
「預かったお金は一万円だけ」
「結構あるじゃん」
「ないよない!全然足りない!」
沙苗はお金持ちだもんね。
私なんか五千円だよ。
笑えてくる。
沙苗はチョコバナナや焼きそばやお好み焼きやポテトフライや唐揚げやいっぱい頼んでいる。
私は射的で大きなぬいぐるみをゲットした。
沙苗に自慢していると、
「あれ左京じゃない?」
遠くの方から左京と冬樹が見えた。
他にも男子が数人いる。
皆かっこいいな。
逆ナンされてる…ってヤバイじゃん!
「沙苗左京がナンパされてる」
「速く行かなきゃ!行こっ」
沙苗は猛ダッシュで左京の所に駆けつけた。
私もなんとか後を追う。
「はーい離れて〜」
「ごめんなさい。ふーゆーきっ!」
「会いたかった〜!譜雪は何してんのかな〜って今見に行くところだった」
「私はお化け屋敷だよ。また後で来てね。私怖いんだから」
「俺もさっき行った。むちゃくちゃ怖かった。俺の事覚えてる?」
「もちろんだよ!桃夜君だよね?」
「あったり〜」
「じゃあ俺は?」
「大智君でしょ」
「やった〜覚えてくれてる〜」
「じゃあ俺は俺は?」
「確か悠人君?」
「あってるよ」
悠人君。
とても冬樹に似ている人。
性格も顔も趣味も、全部。
「何あれ。調子乗ってんじゃないわよ。行こ」
「ほうれさっさと帰れ」
沙苗がさっさと帰るよう促す。
なんか嫌な感じがするんだよな。
特に真ん中のあの子。
冬樹の女バージョン。
まさに白雪姫。
冬樹も嫌そうな顔をしている。
なんかあるのかな?
不安げな顔で冬樹を見る。
冬樹はいつもの笑顔で誤魔化した。
分かってるよ冬樹、あなたが何か隠していることくらい。
お化け屋敷に戻って仕事を再開するものの全然身が入らずお客さんを驚かす事も出来なかった。
「どうしたの?なんかあった?」
お化け屋敷内のチェックの時、実行委員の明日香に聞かれた。
「なんでもないよ」
「そっかじゃあ頑張って!」
「うん、ありがとう」
気を取り直して頑張らなくちゃ。
そのあと何回か恵美や唯が様子を見に来てくれた。
彼女達には正直に話した。
そしたら頑張れって言ってくれてちょっとはやる気につながった。
調子が出てきてからお化け屋敷は人気がアップした気がする。
カップルのお客さんが増えて賑わってきた。
私も楽しくなってきて笑いを堪えながら脅かし続けた。
家に帰ってもウキウキしっぱなしで明後日の学校で何が起こるかすっかり忘れていた。
私にとって最高の幸せはこれからやってくるのだ!
今日は嫌な事もあったけど皆が励ましてくれた。
でもあんなライバルができたと思ったらとても胸がぎゅうっと締め付けられた。
冬樹、冬樹は裏切らないよね。
彼女の所に行ったりしないよね。
私を愛し続けてくれるよね。
私はあなたを信じています。