やってきました、夏!
やってきました、夏休み!
やってきました、海!
私達は今、海に来ているのです。
日本でも有名な海水浴場にわざわざ沙苗のお兄さんが連れて来てくれた。
けど、人が多過ぎてとてもじゃないけど入れないから県内にある小さな海水浴場に行った。
人は少ないし、落ち着いていてこっちの方が性に合ってる。
難破されたくて選んだらしいピンクのフリルのビキニも誰にも見られない。
沙苗、可哀想だな。
私はというと、ポップなドットの水着を選んだ。
別に目立ちたかった訳じゃないから正直こっちの方が良かったのかもしれない。
けど冬樹は不満そうな顔で水着と私を交互に見ている。
「やっぱその水着どうかと思うぜ?」
「そんな事ないよ、可愛いよ」
私は意地になって言う。
「俺はせっかくかっこいい水着選んだのに」
確かに冬樹の水着はとてもかっこいい。
「いいじゃんこれで。どうせ誰も見てないんだし」
「俺が見てる」
そんなに見られると気まずい。
私は話題を変えたくて必死に考えた。
んー?
何も浮かばない。
こうなったら喋らずに、
「それ〜」
バシャーンッ。
勢いよく海に飛び込んだ。
ガポガポと勢いよく泡が溢れる。
苦しくなって空を目指すけど、結構深くまで来ちゃったらしい。
「譜雪?」
皆の私を探す声が聞こえる。
「泡が立ってる。あそこだ!」
バシャーンッ!
誰が海に飛び込む音がする。
だんだんと力が抜けてもがいても上に行くことが出来ない。
目の前が暗くなってゆく。
もう駄目!
目を瞑った瞬間、
「ふ、ゆき」
誰?
もう考える力もない。
冬樹の名前が頭の中で繰り返し呼ばれる。
呪文のように冬樹、冬樹と繰り返す。
そして私の意識は途絶えた。
「……き」
「…ゆき」
「ふゆき」
「譜雪!」
はっ!
うっ。
ゴホッゴホッ。
くるしぃー。
私こんなとこで何してんの?
確か…。
話題を変えたくて海に飛び込んで、そのまま溺れて…死んだ?
「譜雪〜」
沙苗?
「良かった。意識戻った」
左京?
「譜雪?」
冬樹?
皆いる。
てことは私死んでない!
生きてる!
喜んだのも束の間。
「バカッ!俺が行かなきゃ死んでたところだぞ!」
ごめんなさい。
涙が溢れてくる。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
「悪かったな、こんな事言って」
私はちぎれるんじゃないかというくらい首を横に振った。
「おいで。思いっきり泣いていいから」
うわ〜ん…え〜ん…。
私は譜雪の胸に飛び込んで思いっきり泣いた。

どれくらい泣いただろう。
目がパンパンに腫れて赤くなっている。
冬樹の体も私の涙でべしょべしょだ。
「大丈夫?」
「うんありがとう」
「良かった〜。無茶苦茶心配したんだよ〜」
「ごめんね沙苗」
「マジで死んでんのかなって思ったぜ」
励ましですか、それ。
「本当に心配したんだからな」
皆の言葉に思わず笑ってしまう。
皆も笑ってくれる。
冬樹も笑いながら私にゆっくりキスをした。
やっぱり冬樹のキスはとても優しい。
っていうか左京達の前で何やってんの?
絶対何か言われる。
予想通り、
「ヒューヒュー」
という冷やかしの声が飛んだ。
やっぱり…。
私は呆れて首を横に振った。
いつもならこれで終わるけど、今日は仕返ししなくっちゃ。
私は
「もっかい飛び込んでやる〜」
そう言って海に走った。
けどなんの声も上がらないし、止めに来る気配もない。
何これ。
後ろを振り返ると不思議そうにこっちを見ている三人。
うっわ恥ずかし。
「誰かなんかリアクションとってよ!」
一瞬沈黙があり、その後皆が一斉に笑い出す。
私も吊られて笑う。
しばらく笑って落ち着くと皆飛び込まずに海に入った。
ビーチバレーをしたり、シュノーケリングしたり、浮き輪に浮きながら談笑したり、どこまで泳げるか競争したりした。
とても楽しかった。
サンセットを見た後皆で軽くBBQした。
そのあと花火をしてまた沙苗のお兄さんに送ってもらって家に帰った。
波乱万丈の夏休み、危なっかしくて怖かったけどとても楽しかった。
海に行った日が私の一番の思い出。
素敵な思い出を作って夏休みは幕を閉じた。