母は、私が覗き見をしていることを知っていた。


乱れた髪の間から見える母の卑屈な目。

それは確かに、襖の向こうで息を殺す私の姿を捉えていた。


母は、何をやっても何処かが抜けていて、それを笑い飛ばすほど、明るい性格ではなくて、夫の感情の起伏に常に怯えていた。


でも、私は母が好きだった。


善良だけが取り柄で、妹ばかり可愛がる母でも、私にはたった一人の母親だ。


中学生の時。
母が頬に痣を作っているのを見て、

『お母さん、離婚すれば?』

と私が言うと、母は俯きながら、

『離婚したら、食べていけないよあんた達だって、生活出来ないよ』と答えた。


『私、バイトするよ』


ただ、私は、母に勇気を持ってもらいたかったのに。


『無理だよ。お母さん、手に職もないし』


母は吐き捨てるように言った。


ーー顔を殴られても、生きていく為なら、仕方ないと暴力を容認している。



そう思った時から、私は母を心の中で小馬鹿にするようになった。


…男に依存しなければ、生きていけない女。