ーーなぜ、そんなことを訊くの?


そう問いたくなるのを、口の中の真鯛が救ってくれた。



窓から見える夜の景色は、
週末の解放された酔客の街だ。


いつも、仕事が終わるとまっすぐに帰宅する私には、久しく見ていなかった光景。



23歳の羅夢とは、所属する課が違うから、まともに喋ったことなどない。


会社のロッカーが隣同士なので、挨拶と今日は寒いね、とか
午後から雨が降るみたいだよ、とか話す程度だ。


こうして向かい合っていると実感する。


羅夢は、私の苦手なタイプだ。
(軽く酔っていなければ、一緒に過ごすことは地獄だっただろう)


13歳下の彼女の前では、つい『物分りの良い、年上の女』を演じてしまう。


笹木羅夢。


私達は、仲がいいわけではない。


なのに、こんな時間にこんは場所にいる。



はたから見たら、仲良し姉妹にでも見えるかもしれない。


この洋風居酒屋に入ってから、30分が経つけれど、会話は弾んでいるとは言い難かった。



「これ、美味しいバルサミコ酢ね。
羅夢ちゃん、好き?」



…本当はそんなこと、どうでもいい。