ーーあ、はい…あんまり得意ではないですけど、少しなら…


狭い店内で時々、達也と腕が触れ合う。
そのことに私は息が詰まるくらい緊張してしまった。

…男を知らないわけでもないのに。


酒の席では、乾杯の時、ビールをコップ1杯付き合う程度で、あとはソフトドリンクにするのに。


達也に勧められるまま、熱燗を呑んだ。
匂いがつんときて、ひと口流し込んだだけで、喉がぴりりとした。

いつもの私なら、ダメです、とお猪口から唇を離すのに。


私は、その液体を三口で飲み干した。



ーー美味しいだろ?『酔鯨(すいげい)』だよ。高知の酒だ。クセがなくて、飲みやすいと思うよ。どう?


達也がニッコリ笑って、とっくりを差し出し、再び私の盃を満たす。

とても楽しげに。


目の前の男が、最愛の妻と死に別れしたという辛く悲しい過去を持っているなんて、全く信じられない。



ーーはい…すごく美味しいです。