羅夢の声に、私はゆっくりと視線を正面に移す。


勝ち誇ったように悠然と微笑む
腫れぼったい瞼、唇の厚い女。


……そして、私の憂鬱は始まった。






唐沢達也は、私の直属の上司だ。

私は、31歳の時、この会社に入社した。

2度めの転職。


前の会社では、経営不信の為に大勢の正社員がリストラの一環として時給制のパートタイマーにされ、それでは生活出来ないと、大量辞職していて、私もその一人だった。


だから、達也のいる中堅の医薬品メーカーに正社員として採用された時は、本当に神に救われた気分だった。


これで、一人暮らしが続けられる。

生活の為。働くのはお金の為だ。

今更、妹一家と母が同居する3DKの団地になど戻れるわけがない。


かつて私のものだった四畳半の部屋はたいして使いもしない甥っ子の学習机に占拠されている。


仕事のやりがいとか楽しさとか、私には関係ない。