「むしろ、こっちの格好をすぐに見慣れますよ。これからデートもたくさんしますし、俺がスーツを着るのは仕事に行く時だけですから。……あと、琴音さんには素の俺を見せますから。どんな格好していても受け入れてくださいね?」
「どんな格好していてもって何ですか……それ……」
「言葉のままの意味ですよ?」
「あっ、まさか、惣介さんってコスプレの趣味でも……!」
「……ぷっ。それも面白くていいかもしれないですけど……まぁこれからのお楽しみってことで。何十年も一緒にいれば、いろいろありますから。楽しみですね?」
「いろいろ……ですか?」
「はい。あんなことやこんなことですよ?」
「!!」
惣介さんの言っている意味が何となくわかった私は息を飲んでしまう。
“素の俺”って……そういう意味……!?
私の反応を見た惣介さんはくすくすと笑っているようだ。
私服だとは言ってもお見合いの日と変わらず、癖のある髪の毛と黒縁メガネが惣介さんの表情を暗く隠していて。
表情は見えにくいけど……ちらりと見える黒い瞳と口元を見て表情を読めることに気付く。
今は……うん。きっと私をからかって楽しい、っていう表情だと思う。
しばらく続けていれば、この技はすぐに身に付きそうな気がする。
……惣介さんって、意外と子供っぽいところがある?
お見合いの日も意地悪なこと言われたし……
新しい惣介さんの表情が見えるたびに、知るたびに、私の中に“嬉しさ”と“惣介さん”が溜まっていく。
すごく不思議な感覚がするけど、嫌じゃない。

