坂道を登って、登って、どこかに車が止まった。

窓の外は真っ暗で、遠くに街のキラキラとした光が見えるだけ。

山にでも登っている感じがしていたけど……一体、ここはどこなんだろう?

かちゃりと惣介さんがシートベルトを外す音が静かな車内に響き、惣介さんが後部座席から何か袋を取り出した。


「琴音さん、これ、つけてください」

「え?」

「外は寒いですから。マフラーです。洗ったばかりで綺麗ですから安心してください」

「あ、は、はい……」


私にぐいっと押し付けるように惣介さんが私に渡してきたものは、ふかふかのマフラー。

……あの柔軟剤のいい香りがするマフラーだ。

……私は惣介さんのことを諦めると決めたその日から、惣介さんから受け取った洗剤も柔軟剤も使わないようにしていた。

……あの香りに包まれると、惣介さんのことを思い出してしまうから。

でも今は仕方ない、よね。と私は受け取ったマフラーを首に巻く。

私の鼻をくすぐったその香りは、やっぱり私の胸をきゅっと締め付けた。

無意識に目線を下げてしまう。


「ちゃんと温かくしてくださいね?風邪引かれたら困りますから」

「っ!」


私に伸びてきた大きな手にビクッと身体を震わせてしまったけど、その手は気にする様子もなく、ちゃんと巻かれているかを確認するようにマフラーをぽんぽんと叩いた。


「うん。大丈夫ですね。じゃあ、外行きましょう」

「……はい」


あっけなくするりと離れた手はそのまま車のドアを開けて、外に出て行ってしまう。

惣介さんの心が全く読めなくて、ふぅと息をついた私は、それに続いて外に出る。