「三浦くんも、ご挨拶を」
「……はい。三浦惣介(みうらそうすけ)です。本日はよろしくお願い致します」
聞き心地のいいテナーボイスでそう挨拶をしてくれた三浦さんは丁寧に頭を下げた後、さっきと同じように口元に軽い笑みを浮かべ、私のことを真っ直ぐと見据えた。
……三浦さんは口数があまり多い方ではないのか、それとも坂本さんと叔母の口数が多過ぎるのか、私と三浦さんは出てくる食事に黙々と箸をつけながら、ただ坂本さんと叔母の話を聞くだけの時間を過ごす。
その内容は殆ど思い出話で、坂本さん夫婦と叔母夫婦は昔から交流があって、よく家族ぐるみで集まっていたらしい。
最近は子供も大きくなって、あまり集まることもなくなったとか。
他人の家同士の話だしちょっとつまんないけど会話がないよりはマシかも、なんて思いながら、私は目の前に置かれたお茶の入ったグラスを手に取り、口をつける。
結局はお見合いなんて形だけで、このまま殆ど話さずに流れちゃうのかもしれない。
あんなに悩んだ意味はなかったのかもな……。
まぁ、流れるなら流れるでいいんだけど……。
そう思いながら、グラスをテーブルに置いて顔を上げると。
ばちっと聞こえたかと思うくらいの勢いで、私と三浦さんとの目線がぶつかった。
「っ!」
「……ふ。そんなに驚かないでください」
「あっ、そういう意味じゃなくて……っ」
「わかってますから。そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ?」
「!」
くすくすと笑う三浦さんは、最初から今まで私に感じさせていた印象をその一瞬で崩していった。
見た目はちょっと暗い感じするけど……中身は意外と明るい人、なのかな……?

