掻きむしった心臓。

“お前は呼吸ができていいよな”


その言葉が頭の中で何度も再生される。
まるで耳元で囁かれているかのように。


「もっと、もっと何かあるはずだろ。くだらない物でも昔集めてたものでも。何も、ほんと何もないなくてビックリした……でもそんなこと俺たち家族が一番わかってたはずだろ。兄貴が勉強しかやってこなかったことなんて俺たちが一番近くで見てたんだから…」




“お前は呼吸ができていいよな”


「俺なんか野球とかサッカーとか漫画とかギターとか飽きたら捨てて長続きしたもんなんか何ひとつなかったくらいなのに……」



「母親が棺には兄貴のすきなものをいれてやろうって言ったから、じゃあ何を?って具体的な話になると何も思いつかなかった。わからないんだよ。兄貴のすきなものが。結局親も兄貴のことなんて見てなかったんだ…。親が見てたのは兄貴の成績だけ。アイツ頭イイからそんなのとっくに気付いてたんだ。俺たちが気付くよりずっと早くに……」





“お前は呼吸ができていいよな”




「わかりづれーんだよ。そんな言葉……」



大樹は顔を覆い歯を食いしばって嗚咽をもらす。
ふるえる大樹の肩をあたしはぎゅっと抱きしめた。