「山崎くん」
日直で教室にいるはずの川崎の元へと向かっているときだった。
振り向くと、松阪さん。
小さな赤い箱をもっていて、それを差しだす。
「受け取ってください」
あの時みたいに真っ赤な顔。
箱をもつ手は震えている。
噂で私大に受かったと聞いていたけど、久しぶりに見る。
相変わらず可愛くて、周りの評判は上々だった。
「俺さ、大学推薦とおったんだ。松阪さんも私大に受かったんだろ?」
俺が聞くと彼女はゆっくり頷いた。
「だからはっきりさせるよ」
彼女は期待に満ちた表情で俺を見つめる。
けど、はっきり言うんだ。
ゆっくり息を落ち着かして声を出す。
「俺本当は好きな娘いるんだ」
「え?」
「そしてその子は松阪さんじゃないんだ」
自分でひどいこと言ってるのは分かってた。
彼女の涙にも気付いてた。
けどそれでも俺は川崎だけを見ていたかった。

