「梓衣ー、忘れ物はない?」
「ないよー!」
もう、お母さんはいつまでも子ども扱いするんだから……。
私、花園梓衣は至って普通の女子高生。……って言っても、高校生になったのは一昨日なんだけど。
ずっと憧れていた空ヶ丘高校に入学し、友達もできたし……いいスタートを切れたと思う。
「気をつけていくのよー」
「はーい。行ってきます!」
元気よく挨拶をし、ガチャリと家のドアを開ける。
「遅せーよ」
「あ、洸くん!」
開けたドアの前で不機嫌そうに待っていたのは幼なじみの神崎洸くん。幼稚園の頃からずっと一緒で、実はお家が隣なんだ!
そして、私の初恋の人で、今の好きな人でもある。……洸くんは気づいてないみたいだけど。
「何ボーッとしてんだよ、置いていくぞ」
「あっ、待ってよ!」
小走りで洸くんの背中を追いかける。洸くんも同じ空ヶ丘高校に通っていて、毎朝迎えに来てくれる。まぁ通り道に私の家があるだけなんだけど……。
「なーに変な顔してんだよ」
「なっ……変な顔じゃないもん!」
たまーにこういうことを言って私を苛めてくる。たまーにじゃないか、よくあることだし。
そんなかんじで私たちは学校までの道のりをゆっくりと歩いていく。
もう少しで学校、という所で後ろから私たちを呼ぶ声が聞こえた。
「梓衣ー、ザキくーん!」
「あかりちゃん、それに風見くんも」
「はよー」
「相変わらずお前たちはラブラブなんだな」
声をかけてきたのは姫宮あかりちゃんと、あかりちゃんの彼氏の風見新くん。あかりちゃんは可愛くて、ちょっと変な女の子。風見くんは……一言で言うと不良。だけど、あかりちゃんのことは大切に思っているみたい。