「…誰?」
ふいにかけられた声に振り向いたそいつの目は
まるでうさぎのようだった。

「別、に。」
鼻をすすりながら立ち上がろうとしたそいつは、
よろけて俺の胸に飛び込んできた。

「、っごめん」
バッと体を離したそいつの顔は真っ赤で。
なぜか高鳴る俺の胸に
俺自身が驚いた。

うつむき加減でもう一度謝りながら
走り出そうとするそいつの腕を掴んだ。
「なに、よ」
赤い目だけを上に向けるそいつは
また泣き出すように
めを潤ませ始めた。

おびえたウサギ。

小学校の時、こんなウサギもいたな。
と思いながら、
次の言葉を考える。

「いや、さ。」
つい掴んだ手を離せないままに考える。
だって離したらきっと。
どこかに行ってしまう気がして。

目を宙に泳がせる。

えっとえっと…

「泣くなよ」
出てきた言葉はそれだけで。
びっくりしたように目を見開くそいつは
すぐに柔らかな笑顔を見せてくれた。
「ありがと」
にこり、と笑う彼女を俺は。

rabbit

寂しくて死んでしまうなら
俺の胸にもう一度。