人魚姫の罪

「天は地を通う   天は海を仰ぐ

 とどろかせろ その名は…   」

茶色いウェーブしたすこし長めの髪に、白いワンピースを着た女性が、岩場に座って何かを歌っていた。

うっとりするような不思議なその美しい声を聞くばかり、気配だろう。

「その名は メノ…。」
彼女は歌うのを辞めて、言った。
「だれかいるの?」
振り向かず、そのまま俺に話しかけた。
磯の匂いと甘い匂いが鼻をくすぐる。
焦った。
逃げようとも思ったがしばらく彼女を見ていたかったのもあったし
逃げたら怪しいだろう。
「いや…。」「あれ、ちがうなぁ。
男の人の匂いがするもん」

そう言ってゆっくり彼女は振り返った。

海の風が髪をなびかせる。

オレンジ色に染まった瞳。
光る髪の毛が俺の黒目に写った。

振り返ったまま、彼女はそのまま僕を見つめた。

とてもきれいな人だった。
大きな目にかわいらしいピンクの唇に、柔らかそうな白い透き通った肌に。
まるで、人間ではないと思わせるようなきれいさだった。
うっとり見惚れ、声も出ず固まってしまった。
声も出ず、ただ目を一点に止めることしかできない。
「どうかしましたか?」
彼女はまた柔らかい声で言った。
「あ、いや…歌ってたのでつい…。」
彼女から目をそらし、うつむく。
目を見て言えなかった。
「海に向かって歌うなんて、どっかのお姫様じゃあるまいしって思わなかった?」
彼女は笑いながら言った。
「いや、上手ですね」
彼女の目を見ていうとなんだか恥ずかしかった。
心のどこかで小さな明かりがついたような
ぽっと、胸があたたかくなった。

「お世辞なんてしなくてもいいのに」
そういうとまた、ふふっと笑った。