砂漠の夜の幻想奇談


「太守様!?」

「太守様がっ…!そんな!」

宙に浮くシャールカーンを下から見上げ、呆気に取られる兵達。

ドニヤもトルカシュも口をあんぐり開けているし、バルマキーは石のように固まっている。


「しゃーる~?」

ゆっくりと床に降りたシャールカーンは、唯一普通の表情をしている愛娘を抱っこした。

手を引き抜かれたことで楽になった心臓の痛み。

落ち着いて深呼吸をしてから、駆け付けた臣下に向き直る。

「驚かせて、すまない。これは――」

説明しようとした時、シャールカーンの耳元でマイムーナの声がした。

「砂漠で待っているからな。違えるでないぞ?違えた時は……可愛い娘がまた眠りにつくだろうよ」

脅迫だった。

だが、シャールカーンは従うしかないのだ。


高笑いを響かせ、そのまま魔神マイムーナは消えていった。