こんな家庭に生まれていたら、どれほど幸せな人生を送れただろうか。
ふとそう思ったこともあるが、冷たい親のもとに生まれたからこそ、ここに来て「当たり前の幸せ」に気づくことができた。
「最後に…“父上”と呼ぶことを……許していただけますか…?」
ずっと呼びたかった。
けれど、なかなか呼べなくて。
こんな自分が彼を父と呼んでいいのか不安だった上、それを許されるのが怖かった。
勇気が、なかった。
「やっと、呼んでくれるのか」
優しい声。
なんて耳に心地好いのだろう。
「っ……父、上…」
蚊の鳴くような声だった。
「聞こえんぞ。もっと大きく。返事はハッキリ!」
「はい!ち、父上…!」
心臓をバクバクさせながら声に出した瞬間、無骨な手で頭を撫でられた。
「行っておいで、我が子よ」
さよならは言わない。
帰る家はいつでもお前を待っている。
そう言われたような気がして、カシェルダは柄にもなく泣きそうになった。



