砂漠の夜の幻想奇談


コンスタンチノープルに戻らない。

これはつまり、アフリドニオス王の臣下であることを辞するということ。

頭の良いカシェルダが、何もなくこのようなことを言うはずがない。

王は悟った。


「そうか…。行くのか」

「はい。申し訳ございません」

深く謝罪するカシェルダにクルリと背を向ける。

「旅立つ前にカムルトスに会ってゆけ。お前の育ての親であろう」

「はい」

「今までご苦労だったな。感謝しているぞ…カシェルダ」


背を向けて話す王にカシェルダは苦笑した。

意外と涙脆いところがあるから、きっと顔を見ていられなかったのだろう。

「勿体なきお言葉、感謝致します」


打倒バグダードを胸に、この国の軍に入ることを決めた遠い昔。

利用するだけのつもりが、これ程までに情が芽生えるとは思わなかった。


(好き…だったんだな)


この国で、この主のもとで働くことが。


離れる瞬間だからか、今それを強く感じたのだった。