砂漠の夜の幻想奇談


「どうした?」

カシェルダの急かすような声がシャールカーンの耳に届く。

王は我に返った。


(そうだ、今はそれよりも…!)


落ち着きなくその場を行ったり来たりするバキータに視線を向ける。

唐突過ぎる獣の登場に皆がギョッとする中、サバーやカカーン、それから自称第一王子までもが後退った。

近くにいて平然としているのは、どうやらカシェルダだけのようだ。


「なっ、なんだ!こいつは!」

青ざめた顔の兄を小馬鹿にするようにシャールカーンが不敵な笑みを浮かべる。

「バキータだよ。ダウール兄上はバキータを溺愛していたから、会わせて差し上げれば喜んで下さると思ったんだが……おやおや、どうしたんだい?顔面蒼白だね」

その時、カシェルダが握っていた鎖の強さを緩めた。

拘束が弱まった途端、バキータは偽のダウールマカーンに突進していく。