砂漠の夜の幻想奇談


「無礼者!!」

罵りながらカシェルダが素早く動いた。

長剣を放り出し、短剣でダハナシュの首を狙う。

「おっと、危ない」

それを軽々と避けた魔神は、少し懲らしめてやろうとカシェルダに手を伸ばした。

しかし――。


「ダハナシュ!」


サフィーアの声がしたかと思うと、彼は腕をグイと引き寄せられた。

そのままダハナシュの頬に柔らかいものが押し当てられる。


「姫っ!?」

一部始終を見ていたカシェルダが非難するような声を上げた。

「フッ、フフ…嬉しいぞ。サフィーア姫!」

それはほんの一瞬のことだった。

サフィーアからの頬への口づけ。

ダハナシュは興奮さめやらぬ状態で彼女を腕に抱いた。

「では行こう」

「きゃ!」

ふわりと浮かび上がるダハナシュに驚きの悲鳴を上げる。

「サフィーア姫!!」

「カシェルダ!?」

少し浮上したダハナシュの足にカシェルダがしがみついた。

「フン、ついて来るか。まあ良い。振り落とされないよう気をつけろ」



それから、魔神はものすごい速さで空を飛び始めた。

目眩がしそうになり目を閉じるサフィーアに、必死でダハナシュの足に取りすがるカシェルダ。

そんな二人などお構いなしに、ご機嫌な魔神は鼻歌を口ずさみながら砂漠へと向かったのだった。