辛い記憶だ。

あんな悲惨な光景、思い出したくもない。

ルームザーンはギュッと唇を噛んだ。

「マリアムのことは……もう、大丈夫です…。…失礼致します。兄上」

やっとの思いでそれだけ言うと、彼は兄に背を向けた。

そのまま役目を果たすために歩き出す。


遠ざかる弟の後ろ姿を見つめながら、マルザワーンは顎ヒゲを撫でた。

「ふん……どこが“大丈夫”だ。嘘つきな奴め」

端整な顔立ちの弟とはまるで似ていない容姿を持つ彼は、この上ない悪人面でニヤリと笑う。

「まあ、せいぜい苦しめ。最愛のマリアムを忘れられずに悶死すると良い」


マルザワーンの心に溜まった憎しみと嫉妬。

兄の真意に気づくことなく、ルームザーンは恋人の呪縛から逃れきれずに苦悩する。