砂漠の夜の幻想奇談


戦場にいた全員が息を呑む。

それから動揺が起こり、焦りが生じた。

兵士達がどよめく。


「サ、フィーア…!」

シャールカーンはあまりの驚きに思考が鈍った。

愛馬ジェドラーンに乗ったまま、ただ呆然とサフィーアを見つめる。


「王様!ここまで追い込んだ敵将を見す見す逃がしてはなりません!」

左翼を率いるムスタファ将軍が声を上げた。

「けど!王妃様が!」

トルカシュも叫ぶ。

「王よ!!いかが致しましょう!」

前衛を指揮していたバハラマーン将軍が駆けて来た。

今は全軍が停止している。

包囲したカイサリア軍も様子をうかがっているようだ。


「サフィーア…」


シャールカーンの瞳に、怯えた表情のサフィーアが映る。

大事なのは、軍の勝利か、サフィーアの命か。


(俺はっ……!)