「バルマキー?」
ツカツカと入室してきたシャールカーンの側近は、驚くドニヤを無視してサフィーアに一礼した。
「王妃様。此度はまことにおめでとうございます。臣下一同、嬉しく思っております。しかしながら…」
バルマキーは見えない敵を警戒するかのように声を低めた。
「どうか、ご懐妊のことはもうしばらく内密に致したく、お願い申し上げに参りました次第にございます」
(秘密にしなさいってこと?なぜ?)
首を傾げれば、バルマキーはいつもの落ち着いた口調で理由を説明してくれた。
「王様がこのバグダードにいらっしゃらない今、貴女様のご懐妊を知れば悪い動きを見せる方がいらっしゃるでしょう」
(それって…)
「ゾバイダ王太后様にございます。くれぐれもご注意なされませ」
シャールカーンに世継ぎができれば、カンマカーンが王座につく可能性がまた遠退く。
溺愛する息子のためなら王太后はサフィーアを子供もろとも殺すことさえ厭わないだろう。
(……わかったわ)
ゴクリと生唾を呑み、サフィーアは自分の身体をギュッと抱きしめた。



