砂漠の夜の幻想奇談



(マリアム…?誰のこと?)


サフィーアの名前ではないが、彼は明らかに彼女をそう呼んだ。


「マリアム…」


再び繰り返し、驚きと切なさが入り混じる表情で王子はこちらに歩み寄ってくる。

サフィーアもドニヤも訳がわからず立ちすくんだまま。


目の前までやって来たルームザーンの手が、サフィーアの頬に触れた。

真正面から見つめ合う二人。


(王子…?)


こちらを凝視しているが、彼の瞳は自分を通して別人を見ているようだ。

サフィーアがそう感じた時、不意にシャールカーンによく似た形の唇が近づいてきた。


(えっ…!?)


雰囲気でわかった。


(キスされる…!?)


焦ったサフィーアが徐々に迫ってくる王子を押しのけようとした瞬間――。