砂漠の夜の幻想奇談


ドニヤに注意されたサフィーアは、キョロキョロ周りを見回して人がいないことを確認した。


(大丈夫よ!誰もいないわ)


ニコリと笑って心配性のドニヤを安心させようとした、その時。


「おかしいな……迷ったか…?」

すぐ後ろにある宮殿の方から男性の声がした。

足音がだんだん近づいてくる。

サフィーアは思わず振り返った。


「あ…」


男性がサフィーアを見つめる。

彼はカイサリアの王子、ルームザーンだった。


(あっ、王子。戻って来たのね)


先程ファリザードが、バグダード観光をするため市内へ出掛けたと言っていたのを思い出す。

サフィーアが出会いの挨拶に一礼しようとした時、ルームザーンの目が大きく見開かれた。


「マリアム…!?」


サフィーアを真っ直ぐ見つめながら、彼の唇が知らない女性の名を叫ぶ。