砂漠の夜の幻想奇談



「お前がサフィーア姫に口づけようなど、千年早い」


地の底から響くような声がした。

かと思うと、アズィーザの身体がサフィーアから引きはがされ、宙に浮く。

何事かとサフィーアが涙目で見上げると、空中にはダハナシュがいた。


「ぐっ、がっ…!!」

宙に浮いた状態でアズィーザはダハナシュに首を絞め上げられている。


「死ね」


ダハナシュが冷たく言い放ち、さらに手の力を強くした。

呼吸困難に陥るアズィーザ。

彼女の腕がだらんと垂れたのは、それからすぐのことだった。


(ダハ、ナシュ……)


助けてくれた。

が、すでにサフィーアは死の口づけを受けた後だ。

数分後、苦しみ出して死ぬ運命。


顔面蒼白になってブルブル震え始めたサフィーアに気づき、ダハナシュはアズィーザを持ったまま声をかけた。