砂漠の夜の幻想奇談



 聞き耳を立てるつもりはなかった。

たまたま聞いてしまったのだ。

だが、聞いて良かったのかもしれない。


(西への遠征か。厄介だな)


カシェルダはサフィーアの父アフリドニオス王の臣下だ。

敵国の軍事情報を知って動かないではいられない。


(どうする…。俺がコンスタンチノープルに飛んで王に報告するべきか?)


直ぐさま知らせれば対策が立てられる。


(だが、それでは根本的な解決にはならないな)


両国が戦争すれば、どちらが勝利してもサフィーアは悲しむことになるだろう。


(俺が護りたいものは、サフィーア姫だ)


サフィーアの涙を見たくないならば、戦争そのものを起こさせない必要がある。


「だが今のところ、これしかない。コンスタンチノープルへ辿り着く前に、全軍撤退せざるを得ない状況をつくってみせる…!」

考え込んでいたカシェルダの耳にシャールカーンの声が届いた。