砂漠の夜の幻想奇談



 主役の二人が退場した後の広間は未だざわついていた。

帰り支度をする客もいれば、まだまだ飲むぞと杯を手に取る客もいる。

そんな中、カンマカーンはノーズハトゥの傍に移動していた。

「ノーズハ…」

婚約者に声を掛けようとして言葉を切る。

見れば彼女の横顔は切なげで、今にも泣き出してしまいそうな雰囲気だ。


(ノーズハトゥ姫…)


彼女が兄を慕っていることは薄々気づいていた。

だからこそ、自分との婚約は彼女にとって苦痛ではないか。


(貴女が、シャール兄上を忘れられないのなら…)


婚約を破棄しよう、などとは思わない。


「ノーズハトゥ姫!」

「あ、王子…」

勇気を出して呼び掛ければノーズハトゥは振り向いた。

「宴はいかがでしたか?」

柔らかい笑顔で何気ない話題を口にする。

するとノーズハトゥも泣きそうな瞳のまま微笑んだ。