「待ちくたびれたよ」
そっと耳元で囁かれる。
吐息がくすぐったい。
「とても綺麗だ……俺の満月」
視界に映るは、キラキラ光る金髪と清んだ青。
迫るシャールカーンを受け入れて、唇を重ねる。
まさか抱っこされたまま賓客に見せつける形で口づけられるとは思いもしなかったため、サフィーアの身体は羞恥に震えた。
ちょっぴり涙目になる花嫁の額や頬にもキスを落とすシャールカーン。
彼はご満悦な様子で周囲の人々に向き直った。
「……と、いうことで」
笑顔の王子は告げる。
「お集まりの皆様方、申し訳ございませんが私達は早々に下がらせて頂きます。なお、まだ宴は続いておりますので、ごゆるりとお楽しみ下さい」
(え?シャール?いいの!?)
ポカンとする一同を置いてサフィーアを抱き上げたまま退出しようとするシャールカーン。
そんな花婿を大声で呼び止めたのはフェトナー様だった。
「シャールカーン王子!まだ残りの儀式が…」
「すみません、叔母上。やはり待ちきれそうにありません」
多くの女性を虜にしてきたニッコリスマイルが向けられる。
フェトナー様は苦笑し、「やれやれ」と溜息をついたが、それ以上やかましく発言することはなかった。



