長く続いた宴の時間だが、夜の帳が下りる頃になっても人々の興奮が冷める様子はなかった。
街は火の明かりでライトアップされ、普段よりも夜景が美しい。
しかし、せっかくの綺麗な景色を楽しむ余裕など、花嫁のサフィーアにはなかった。
「サフィーア様、こちらです」
ドニヤに案内され、今までいた宴会場から廊下へ出る。
いよいよシャールカーンが待っている広間へと向かうのだ。
(き、緊張する…)
口を真一文字に結ぶサフィーアを見て、横にいたノーズハトゥが優しく声を掛けた。
「サフィーア姫、笑顔をお忘れなく。笑っていれば自然と緊張も解けますよ」
(そっか。笑顔、ね…笑顔笑顔)
「笑顔」を呪文の如く復唱していると、ドニヤが広間の入口に立った。
「花嫁をお連れ致しました」
広間の男性達にそう報告するドニヤの声が響く。
「さあ、サフィーア様。前へどうぞ」
促され、女性達の先頭を歩くサフィーア。
賓客として集まった多くの女性達を後ろに従えて、花嫁は花婿のもとへ歩き出した。



