砂漠の夜の幻想奇談


今も昔も、女という生き物は好かない。

「だが……サフィーア姫は好きだ」

胸に手を当てて、決して手に入らない彼女を思う。


「愛しいよ」


唇から、想いが溢れた。


「最初はどうでもいい存在だったんだ。単に仕事として護衛の任務を果しているだけだったのに」

サフィーアの護衛係となり一週間経ったある日、お忍びで街を散歩していたサフィーアは賊に誘拐されかけた。

未遂に終わったのは、その場でカシェルダが悪漢達を斬り殺したからだ。

血まみれの男達を見てサフィーアは怯えていた。

それに対して、自分はどうだ。

冷めた瞳で死体を見下ろす。

これが仕事――。

欲しくもないのに、人を殺しても何も感じない凍てついた心を手に入れてしまった。


(俺の手は人を殺すためにある。復讐だけを夢見て軍に入り、磨いてきた剣の腕)


それなのに――。


――カシェルダ、ありがとう


泣きながら抱き着いてきた年下の姫。


――護ってくれて、ありがとう



違う。護ったんじゃない。ただ人を殺しただけ。君を護ろうとした行動では――。

内心そう反論していたが、サフィーアの言葉を心地好く感じているもう一人の自分がいた。


「嬉しいと、思ったんだ。こんな俺でも、護れるものがあるって」