砂漠の夜の幻想奇談


「へっ!行かせっかよ!」

バルマキーの肩を掴んだ者がいた。

ルカスだ。

先程カシェルダに落とされた彼だが、まだ場内にいたようだ。

「なっ!!放しなさい!」

ラテン語で抗議するも、逆効果。

「騎士団として、テメーらに負けるわけには、いかねーんだよ…!」

ルカスは鎧の内側に隠し持っていた短剣を握り、その刃をバルマキーの首筋に当てた。

「くっ…!」

動けない。

バルマキーは冷や汗をかきつつ目でシャールカーンを追った。

王子がこちらに来てくれれば投げ渡すことも可能だが、テオドールの追撃を振り切ってくるのは至難のわざだ。


(どうする!?)


ゴクリと生唾を呑み込んでいると、シャールカーンが首を回してこちらに顔を向けた。

遅いと思ったのだろう。

急かすつもりでいたのだろうが、王子は目を見開くことになる。

「なっ!バルマキー!?」

羽交い締めにされ、僅かでも動こうものなら首に刃が突き刺さる状況にある従者。


「卑劣なっ!!」


真面目で正々堂々としているテオドールが指示したわけではないだろう。

そう考えたシャールカーンはルカスに怒りをぶつけるべく、バルマキー達に向かってジェドラーンを駆った、が――。