砂漠の夜の幻想奇談


曲はスローテンポのヘ長調。

大広間の中央で王と王妃が踊り出せば、周りにいる召使達も合わせるようにしてステップを踏む。


両親が席を立ったことでサフィーアはやっとシャールカーンの顔を見ることができた。


(シャール!)


笑顔で横を見遣れば、シャールカーンもこちらに首を傾けていた。

右手で頬杖。

蕩けるような微笑。

愛でるような眼差しで真っ直ぐ見つめられ、サフィーアの顔が紅潮していく。


「そのドレス、可愛い」


不意に、耳に届いたセリフ。

シャールカーンの声だと理解するのに三秒は要した。


(え?シャール今、可愛いって…可愛いって言った?)


オシャレして良かった。

ドキドキと甘い高鳴りが胸に響く。


(嬉しい…!シャールに、可愛いって言われた…!)




ステップを踏む靴音。

ヴァイオリンの旋律はヘ長調。


大広間が熱気で満たされる。

晩餐が終わっても、冷めやらぬ恋の熱気。