砂漠の夜の幻想奇談


しかし――。


「すまない…ノーズハトゥ」


壊れ物を触るように滑らかな黒髪を撫でる。

彼女の表情を見ずに、シャールカーンは繰り返した。


「すまない……」


これ以外、何を言えるだろうか。

全く気づかなかった、自分へ向けられる恋心。

知らず彼女を傷つけていたことに、愕然となる。


「すまないっ…」


乾いた声。

謝罪以外どんな言葉をかければ正解なのか、シャールカーンにはわからなかった。


「王子が謝ることは、ございません…。私が…愚かなだけなのです。本当に……ごめんなさい」


謝って欲しかった訳じゃない。

ただ、酷く切ない胸の内に気づいて欲しくて。


「王子が、サフィーア姫を想っていることは…わかっています。だから、どうか私の言葉は……お忘れ下さい…」


言いながらも心が痛む。

嘘の願いを口にする舌なんか裂けてしまえばいい。

ノーズハトゥは自身を呪った。