砂漠の夜の幻想奇談


「はい……あの…王子」

「何ですか?」

「………ありがとうございます」


出かかった言葉は「ごめんなさい」だった。


(ごめんなさい…カンマカーン王子。こんな私が……貴方の婚約者だなんて…)


カンマカーンは優しい。

人として不満なところなどない。

けれど、末の王子を本当の弟のように可愛がっていたノーズハトゥは、いきなり彼が婚約者だと言われてもピンと来なかった。

おそらく、それはカンマカーンも同じだろう。

だからこうして、ちょくちょく会いに来ては意識しようとしている。

努力しているのだ。

カンマカーンは。


それなのに、自分は…。


(立ち止まったまま……動けない)


カンマカーンが部屋から退出するのを寝台の中でボンヤリ眺める。


(ただ、シャールカーン王子が好きなだけなのに……)


どうして、こうなってしまったのだろう。