砂漠の夜の幻想奇談


砂埃や暑さにやられ、普段よりバルマキーの思考回路が危ないかもしれない。

常に冷静で一定の温度を保っている彼にしては、感情の起伏が激し過ぎる。

「一度、休もうか」

シャールカーンがそう提案し、馬を止めた時だった。

一行は、彼方からこちらに向かって駆けてくる数頭のラクダを目撃した。


「あれは…!」

トルカシュの目が見開かれる。

「マズイ!賊だ!手に刃を持ってる!」

トルカシュの声にシャールカーンがいち早く反応した。

「敵は少数だ!取り囲め!」

バグダードから連れてきた近衛兵達に素早く指示を出す。

「バルマキー!非戦闘員を連れて下がれ!」

「御意!」

バルマキーの他にも戦えない文官や侍女達がいる。

彼らの安全を確保するべく敵から遠ざけるよう命令しつつ、シャールカーンはスラリと腰から三日月刀を抜いた。