砂漠の夜の幻想奇談


「はい、兄上。挨拶をしにうかがったのですが、どこにもいなくて…」

「そんなに心配せずとも、ダンダーンが言う通り、お忍びで街に出たんだろう。昔は俺もよく一緒に遊びに行ったよ」

安心して帰りを待てばいい、とアドバイスをくれる兄に「はい!」と元気良く頷くカンマカーン。

そんな時だった。

カンマカーンよりも危機迫る形相でドニヤが政務所に駆け込んできたのは。


「シャールカーン王子!」

「ん?ドニヤじゃないか。どうした」

乱れた呼吸を整える時間も惜しいと言うように、ドニヤは口を開く。

「も、申し上げます。サフィーア様が…いらっしゃいません…!」

「え…?」

シャールカーンの思考が一瞬、真っ白になる。

「少しお傍を離れていたら…いつの間にか…!」

「ダハナシュは!?護衛を任せただろう!?」

「彼もいません…!」

それを聞いて、直ぐさま走り出したシャールカーン。

その表情は、先程まで余裕そうに弟へアドバイスしていた兄の顔ではなかった。