砂漠の夜の幻想奇談


好きなのではなかろうか。

考えた瞬間、サフィーアはその予想を消し去るように頭を振った。


(私、なんでこんなに不安なんだろう…。シャールが好きだから…?ノーズハトゥ姫に、とられたら……嫌、だから…?)


とられたくない。

自分だけを見ていてほしい。

目移りなんかしないでと叫びたい。

離れて行ってしまうことが、怖いから。


(そっか「好き」って…こういうことなんだ)


愛してほしい。

そして、自分も愛したい。


(シャール…)


他の誰でもない。

それをシャールカーンに求めている自分に気がつく。


「ハァ……仕方ないね。もういいよ。俺だけで行こう。トルカシュ、来い」

やれやれと、少し怒った調子でサフィーアに背を向ける。

「えっ、お一人で!?行く意味ありますか?」

「トルカシュ、お前の父上も来てるだろう?昨夜は挨拶しそびれたからね」


こうしてトルカシュを伴い、シャールカーンは行ってしまった。

背を向けたことで、サフィーアが「待って」と手を伸ばしかけたことにも気づかずに。