砂漠の夜の幻想奇談


「トルカシュ!」

「はい!」

「酒を持て」

「え、飲むんですか?」

「気分なんだ」

戒律で禁じられているため、基本イスラム教徒は酒を飲まない。

しかし、ごくたまには飲む時だってある。

今がその時だとシャールカーンは言いきった。

「酒かぁ…。あったかな?」

水なら十分にあるが酒はわからない。

慌てて確認に行くトルカシュ。

そんな従者を横目に、シャールカーンが隣に座るサフィーアとの距離を詰めようとした瞬間だった。


荒い風の音。

砂塵が舞った。


(きゃああっ!)


「サフィーア!」

突然吹き出した夜風が砂を巻き上げ襲い掛かる。

とっさにシャールカーンはサフィーアを抱きしめた。

「くっ!」

目をきつく閉じて風が通り過ぎるのを待つ。


少しして自然の唸り声がおさまった後、彼らは恐る恐る目を開けた。