砂漠の夜の幻想奇談


「父上。私は無欲でして、今以上のことは何も望んではおりません」

にこやかに言い切った彼。

が、ゾバイダ王妃はこの回答を予想していたようだ。

王が口を開く前に、すかさず会話の主導権を握る。


「シャールカーン王子、それはなりませんよ。王様、王子に何も望みがないと言うのなら、ダマスの太守に任命してはいかがです?」

ダマスとはシリア砂漠の西にある都で、現代ではダマスカスとして知られている。

「ダマスの太守に?どういうことだ?ゾバイダ」

「はい。いずれシャールカーン王子も王位を継ぐ日が訪れることでしょう。その時のためにでございます。ダマスの町一つ治められなくて、どうしてこの平安の都バグダードが治められましょうか」

穏やかな声音だが、シャールカーンは言葉の中に悪意を感じた。