砂漠の夜の幻想奇談


「泣いてないわ!」と口にしそうになったサフィーアに感づき、カシェルダの指先が先手を打って彼女の唇を軽く押す。

「忘れてますよ。叱って差し上げましょうか?」

サフィーアは真っ赤になって、意地悪げに微笑む護衛官を上目遣いに睨みつけた。

「ふふ、冗談ですよ。すみません」

つい先程まで殺し合い前提の決闘をしていた人物とは思えない、柔らかな微笑。


(あ、いつものカシェルダだわ)


サフィーアがよく知っている穏やかな彼。

もう大丈夫と何となく確信し、サフィーアは腰に回していた腕を緩めた。

「ちなみに勝負がお預けになったから、サフィーアを連れて帰るのもお預けだよ」

シャールカーンの声を聞いた瞬間、カシェルダのこめかみがピキッと鳴ったような気がした。

ハラハラしながら様子をうかがうサフィーア。

「貴様っ…!」

「当然。サフィーアを賭けたんだ。決着がつかないまま祖国へ帰すわけないからね」