砂漠の夜の幻想奇談



 アザーンの声を聞きながら回廊を歩く。

召使達も、イスラム教徒ならば皆仕事を中断しモスクへ向かう。

そんな日常風景の端で、シャールカーンは回廊を逆走する影を視界に捉えた。


「ん?今のは誰だ?」

「いかが致しましたか?」

立ち止まって後ろを振り返る王子にバルマキーが尋ねた。


「何だろうね。よくわからないけれど、すごく嫌な予感がするよ」


そう言うとシャールカーンは回廊を戻り始めた。

「王子?どちらに?」

「先に行っててくれ。俺は胸騒ぎの正体を確かめてくるよ」


影を追いかけるように回廊を駆け出す。


(確か、こっちに消えたはず)


曲がった先にあるのは、今まで自分達がいた執務室。

その入口の前に、王子は影の正体を見た。


黒髪に、褐色の肌。


(……まさか!)


その人物は躊躇うことなく執務室へ入っていった。