「こんなところに、何用です?」
小部屋の中はガランとしていて、これといった家具はない。
カシェルダは扉を閉めてから、壁のモザイク画をジーッと見つめている年下の姫に近寄った。
サフィーア姫。
このコンスタンチノープルを支配するアフリドニオス王の一人娘。
美しい黒髪に透き通るような白い肌。
薔薇色の頬が愛らしい美少女。
彼女は一年前から自分の護衛を務めている青年カシェルダに、無邪気な微笑みを向けて言った。
「ほら見て!この絵、ここに名前が書いてあるでしょう?」
サフィーアが指差したモザイク画には十二人の男性が描かれていた。
その男性の下にそれぞれ名前が書かれている。
「ニコラオス、ディノス、ソ…ティリオ…」
順番に読み上げていくサフィーアにカシェルダはハッとした。



