砂漠の夜の幻想奇談


老人が着替えの部屋に入ってきた。

「あ、はい。終わりました」

「ふむ、素晴らしい。やはりこの衣装が似合いだったか」

彼はサフィーアの周りを歩き、様々な角度から彼女の美を観察しながらこう言った。


「これからわしはダマスの太守シャールカーン王子様の御殿へ行く。お嬢さんも共においでなさい」


唐突かつ願ってもない誘いに、サフィーアの胸がドクンと高鳴った。

「おっしゃる通りに、致します」

高揚する気持ちを押さえ込むように静かな声を出す。

「よろしい。おお、そうだ。お嬢さん、名前は何と言う?」

「…サフィーアです」

一瞬、偽名を使おうか迷った。

けれど、シャールカーンに会える可能性があるからには、実名を名乗っておいた方が有利かもしれない。

とっさの判断ゆえ正解かどうかはわからなかったが、とりあえず、老人がサフィーアの名前を気にした様子がないことに彼女はホッとした。



「では行こう」

こうしてサフィーアと奴隷商人の二人は街の中心にあるシャールカーンの屋敷へと向かった。